ケツに火が2ヶ月間付きっぱなしで、最後には徹夜と仮眠のコンビネーションで無理矢理前進して、なんとかDLカードを販売するに至りました。炎上プロジェクトという言葉がぴったり当てはまる様相を呈してしまい、僕としてはとても反省しております。なぜ国見さんは天才でありながらそのような状況に堕ちてしまったのでしょうか。後生のため、振り返っていきましょう。

どういった段階を踏んで音源が作られていったか?

音源の作り方は千差万別だと思いますが、ぼくの場合はこんな流れで作りました。

大きく分けて音源作成と設営があります。

音源作成

アルバムを構成する1曲1曲を仕込んでいく作業です。いうまでもなく、メインの作業です。CDという形ではおそらくもう作らないと思うので、マスタリングにおいてやや違いが生まれるかと思いますが、まあ誤差でしょう。

音源作成には「譜面作成」と「ミックス/マスタリング」があります。ミックス/マスタリングにはソフト音源に人間らしい演奏をさせるよういろいろいじる場面が主です。EQやコンプレッサーをかけるようなことは、Neutron2 & Ozone8 のコンビネーションによりほぼソフトに任せています。

譜面作成

  • アレンジしたい曲を挙げる
  • 曲に対してジャズの味染み込ませるにはどうするか考える
  • 場面転換程度のリードシートを作る(ここまで紙ベース)
  • コード進行やメロディまで書いたリードシートを作る(ここから譜面ソフトベース)
  • リードシートをもとに楽器にメロディを分配する
  • リズム隊に指示を書き込んでいく(ベースが最初、ドラムが次、ほかは流動的)
  • 発想記号など、細かい指示を譜面に書く

ここまできたら、譜面をPDFとMIDIへエクスポートして、DAWに読み込ませ、細かい指示をDAW上で書き込む「ミックス/マスタリング」の準備をします。MIDIエクスポートによって、音の配置は自動的に行われます。

ミックス/マスタリング

先述しましたが、本来思い浮かべるミックスとはやや異なります。

  • まず、譜面ソフトからMIDIファイルをインポートする。管楽器の基本的な演奏がDAWに入る
  • MIDI化されなかったリズム隊を打ち込んでいく(ベース、ドラム、その他の順で)
  • (トランペットを自分の生音でやるならここでレコーディング作業が入る)
  • 管楽器のバウンスをざっくり決める。安定は1/8 40% sw(Studio One Professional想定)。60%以上で美味しいノリにするには頭の位置をほんのわずか後ろにするとよいのか?(未確認)
  • ソロを書く。ソロに呼応するようにリズム隊も修正する。
  • (このあたりでパン振りしておくべきか。M3-2018春では上手く行かず後日修正)
  • 管楽器に発音を仕込む。これはChris Hein horns Compactに依存する。(具体的なのは別記事で)
  • 管楽器の音量をExpression(MIDI CC11)で設定する。ダイナミクスにより発音も変化するので発音調整と平行にあることも多い。
  • 発音と音量設定が出揃ったところで各トラックの音量バランスを調整する。おそらくLeadはSideよりやや大きめにしたほうがよい。
  • ソロの発音・音量調整をする。バッキングに飲み込まれないように注意。
  • ここでようやく本来のミックスであるEQなどの調整をやる。Neutron2に一任
  • 曲が出揃ったら(Studio One上で)マスタリングをする。Ozone8に一任
  • ミックスが完了したらちゃんと音楽再生ソフトで聞いてみる。意外とミスがそこで見つかる
  • いよいよDLカードのサーバに音源をアップロード。

手順多すぎぃ!ンアッー!

設営

新鋭のオンライン即売会にしろ古き善き同人即売会にしろ、ある程度の手順が発生します。

  • イベントに申し込む。情報の入力が意外と多い
  • 当落発表を受け、その先どうするかを決める。
  • 当選だった場合、新譜のデザインをすすめる。(ここがプロジェクト炎上の原因か)
  • 名刺がなかったら、名刺を作る。
  • 設営道具がなかったら、仕入れる。(ポスターとか頼むとコストががが)
  • 販売媒体に応じて下準備をする。(今回はconca用の準備)

オフラインな同人即売会の場合、名刺や設営道具にはコストがかかりますね。

ぼくの場合は名刺を作る作業に2日はかかりました。納品ファイル指定がイラストレーターやフォトショで作成してくれという会社が多く、音楽の領域で頑張る民に対してイラスト関係のソフトウェアに大枚をはたくのはキツイです。でもpsdファイルで入稿できる(相談次第でjpg/pngもいける)グラフィックはいいぞ。(これもブログ記事はやす予定。使った会社や役に立った書籍など。)

おそらく、今回の出展でケツに火がついたのは、当落発表がされるまで音源作成のペースがかなり落ちていたことがあると思います。 当落が出る時点で、新譜の数にもよりますが譜面はほぼ完成していてミックスの作業量が見えているぐらいでいないと危険だと感じました。

それぞれの実働時間は。曲ごとに測定

工廠

工廠 Summary report

この曲は去年からアイデアを練っていたり、タイムトラッキングを最初のうちはしていなかったというのもあって、ビッグバンド譜作成時間がかなり過少になっている。多分もう20時間はあるはず。音量調整と吹き方調整はレガート仕込むのとエクスプレッションかけるところでほぼ同じ工程をたどるので、音量・吹き方調整で8時間といったところ。時間の事情によりギターを全く打ち込んでないのでリズム隊の打ち込みは時間削減されている。というわけで、トラッキングしてなかった時間をプラスして40時間ほど。

鎮守府の午後

鎮守府の午後 Summary report

譜面作成だけで32時間かかっている。 タイマー停止ミスがあったんかなと思いきや、ちゃんと毎回タイムトラッキングした結果だった。マジか。ミックスでは、音量・吹き方調整(12時間半)とギター打ち込み(9時間)がかなりの割合を占めている。ギターに4つ切り仕込むの、大変だったなぁ。工廠に比べ管楽器の演奏の長さがより長く、細かい音符が多かったため吹き方調整にはかなり時間がかかったのではないだろうか。結果として 鎮守府の午後作成にかかった時間は63時間。 ヒィッ。

おひとり様ビッグバンド1曲あたりの所要時間は

M3の譜面作成に本格的に入る前に、とあるビッグバンド曲を学生がtranscriptionした譜面を手直しするのにかかった時間が40時間といったことがあり、基本的にビッグバンド譜面を書くのにかなり時間がかかるというのは身をもって理解しました。 今回、ミディアムファストとファストを書きましたが、テンポに限らず音符の細かさに吹き方調整の時間がとられるので、曲の長さによるものとしましょうか。さて、個別に見ていくと…

トピック 時間
原曲リードシート 6h
ビッグバンド概観作成 ???h
ビッグバンドリードシート 7.5h
ビッグバンドライティング 18h-
~~~ ~~~
ベース打ち込み 2h
ピアノ打ち込み 1.5h
ギター打ち込み 4-8h
ドラム打ち込み 3.5h
ソロ作成 2h
音量・吹き方調整 12h
ミックス / マスタリング 3h-

ほんとざっくり見積もると、60時間ほどとなりました。1曲60時間。 マジか。マジなのか…?まだ2曲とサンプルが少ないため、どんどん作ってフィードバックを増やさないといけませんね。

また大事なところなんですが、外観作成にはトラッキングしきれない時間があったりして、正確な時間はとれません。おそらく5時間ぐらい増えると思います。というわけで、より正確な所要時間は65時間となります。 え、マジっすか…?

KPT(+IRK)で振り返る

振り返りのフレームワークを探していたら、「KPTIRK」というものがあるのを見つけました。「KPTの拡張版「KPTIRK」を使ってプロジェクトを振り返るコツ」

そんなわけで、個人プロジェクトではありますがやってみようと思います。

Keep

“Keep” は、「よかったこと、今後も続けること」を挙げていきます。必死すぎてなにやったか覚えていないのがアレ。

  • 譜面PDFを作成してからDAWで色々仕込むこと
  • ビッグバンド譜作成時、まずリードシートを「パート譜として」作っておくこと
  • ベース・ドラムから打ち込みをすること。ギターに4つ切りさせるなら同様に。
  • 「賢者のプロペラ-3」を聞きつつ作業すると無限に頑張れる。
  • 譜面作成の時点でダイナミクスは書いておく。

賢者のプロペラ-3、クッソ効果が高かったので皆さんにもお勧めします。馬の骨になろう。

Keep -> Knowledge

Keepから抽象化を試み、Knowledgeに結晶化します。

  • サブリミナル的に励ましの歌を作業中に薄く流すのは、GRIT(やりぬく力)を援護する。
  • 仕様書(=譜面PDF)を作成すると俯瞰性が増し、効率的になる。
  • リズム・ハーモニーを早めに敷くことで、発想を加速させる。
  • Trelloのカード管理は曲ごとに行い、曲ごとのタスクはチェックリストで分けるとカードが散らばらずいい感じになる。(Problem -> Knowledge)

2・3番目についてですが、Cubaseのコードトラック機能が人気なのはこの点にあるのではないでしょうか。

Problem

困ったこと、問題点を挙げていきます。

  • 本格的にM3に向けての作業を始めたのがM3の1か月前。 (馬鹿じゃないの?)
  • 譜面PDFを仕上げるのに予想以上(当初見積もり10時間ほど)の時間がかかった。
  • ソフト音源にすべてにおいて不慣れで、納期優先のため品質が犠牲になった。(試せていない機能がとても多い)
  • 本来の意味でのミックス・マスタリングがほぼできなかった。
  • Expressionの重要性を理解しておらず、先にVelocityを調整してしまい時間が無駄になった。
  • ビブラートを入れる余裕がなかった。
  • Trelloのカード管理が面倒くさい感じになった。
  • Trelloのデイリールーチンで作ってるカード管理をチェックしなくなった。

Trelloのやつ2つは直接は関係ないんですが、普段やれていたことができなくなったというのは警戒し、修正すべきだと思います。

Problem -> Issue

Problemの本質化を行います。「なぜなぜ分析」を使ってみます。どこどこ分析も面白そうですね

  • 作業開始時期、1曲の「作業量」を早めに導き出し、販売日に至るまでのスケジュールを確保する。
  • 音源作成以外の作業が発生する場合は、しっかりスケジュールに組み込む。(今回はこの視点が欠けていた)

Try

これ、”Challenge” のほうが適していないか?と思ったのですが、Challengeはもっと意味合いが重く、「精神的・肉体的負荷のかかるものに挑戦する」ということだそうです。”Try”は、「やってみよう」ぐらいの意味合いなので、Tryのほうがよさそうですね。さて、Tryを挙げていきましょう。

  • 作業時間的に使用できなかった機能の使用。アタック、ビブラートの調整など。
  • O8N2の機能をしっかり使ってミックスする。

Try -> Risk

リスクに感じることを雑に口に出します。

  • V-Metalの作業量がどれほどになるか見積もりができない。
  • 各ソフト音源にこだわりすぎると時間が無限に必要になるので注意する。

Try関係、雑になってる気がするがまあいいや。

制作にかかったコストは

PCメモリ増設

8GBから32GBに一気に上げました。

到着のラグにより、本格的な作業をしている中でメモリを足すのが怖くて結局24GBのまま走り抜けました。今ならメモリ増設作業しても大丈夫そうかな。

Studio One Professional 購入

ソフト音源を使いこなすのと後々MelodyneをDAW上で使いこなすためにProfessionalにバージョンを上げました。機能としてはとても満足しており、この際ですから譜面ソフトもNotionにしてガッツリとPreSonus社に依存してしまうのもいいかなと思いました。

  • Prime -> Proffesional 42,800円

ソフト音源購入

ビッグバンドサウンドを得るため、さまざまな音源を購入しました。

  • Garritan JABB 3 (使用:ピアノ、アコースティックベース、パーカッション) 20,736円 (2018/05/14現在)
  • Chris Hein Horns Compact / KP5 (ビッグバンドの管楽器は全てコレ) 28,512円 (2018/05/14現在)
  • HummingBird / V-Metal バンドル (ギターの4つ切りで前者を使用。後者はこれから) 52,855円
  • Drum Tree(時代から音色を決めれるドラム音源。調整済で、ミックスでの労力が少ない) 29,138円

Garritan JABB 3 はさまざまな音源が薄く広く収録されている感じで、コレだけでもビッグバンドサウンドはいける感じがしましたが他ソフト音源の方が力が強く、部分的に使用する感じになりました。他のソフト音源はやや仕込みが必要で。特にChris Hein Horns Compact はクセとアクが強い音源です。しかし優秀だと思います。

合計: 131,241円

ミックス、マスタリングサポートソフト購入

  • O8N2 (Ozone 8 Advanced & Neutron 2 Advanced バンドル) 42,120円 (セール中に購入)
  • Waves Eddie Kramer Signature Series (未使用) 10,800円 (セール中に購入)

O8N2は凄まじいソフトだと思います。 ミックス職人はこのバンドルに宿っていると言っていいでしょう。短時間で80点のミックス・マスタリングができます。Wavesのシグネチャーシリーズ、使ってあげたいなどこかで…

conca DLカード導入

30枚、短納期指定で 25,024円

CDプレス業者に頼むのに比べてコスパは数倍良いと思います。しばらくはこの販売形態でいきましょう。

名刺作成

200枚ほど刷って、 短納期指定して 4,350円 。納期指定をせずにもうちょっと良い用紙とオプションをつけてあげたかった。でもクオリティは文句なしの95点です。

さて、気になる合計は?

303,037円。つまり、30万円。

色々とおわり

収益化は狙えるのか

この収益化については即売会での販売もそうですが、BOOTH / Bandcamp などでの販売やビッグバンドサウンドなオケの作成などが視野に入ってくると思います。特にブラス音源については使いこなせる民が非常に少なく、自分のノウハウとChris Hein Hornsの力があればマネタイズいけるのではというかんじがしています。あと3枚くらいアルバム作ったらブラス音源請負人として金とって仕事しよっかなうへへへ

まとめ

思い返してみたことをずらずら書いていったら7000字ほどになってしまいました。また物量のある記事だ。まあ、色々ありましたが作者入院により新刊ありません よりは数億倍マシだと思います。夏コミ受かったら今度はケツファイヤドリブンにならないようこの記事を思い出して頑張っていきます。